いい短編小説というのは、オー・ヘンリーをもち出すまでもなく、“ほっと大きく息をはく”という感じがある。心温まるというか、いい気持ちにさせてくる。
「テーブルの出来事」(幻冬社)は、そんな短編集である。著者は、ぼくの高校の時の1年先輩で、同じサッカー部にいた植松二郎さんである。先週、ぼくらの世代の還暦を祝う会にも出席してくれて、そのとき、この本を紹介してもらった。
本は、食あるいはレストランに関する物語が10編収められている。登場人物は、そういうお店に勤めている料理人だったり、サービスするひとだったりするが、その職人気質、見習いの心意気、お客さんとのやり取りといった、いろいろな立場でのエピソードを中心に作者の暖かいまなざしで淡々と描いてみせる。まるでサッカーのプレーぶりを思い起こすのである。
本の中に書いてあるのと同じように、とてもいい味です。おいしいお酒を呑んだときのような後味のよい感覚になります。
なかでも、本の帯にも書いてある「シンゴの父親」は父と子、親方と弟子の関係を見事に描いていて気持ちいい。こうしたことは、レストランという場ではなく、あらゆる職場に通じることだと思うのである。
植松さんは手前味噌ではなく、「陽春のベリーロール」や「人々の走路」にしても、こうした肩の力が抜けた、しかし奥深いものを提供してくれる数少ない作家であるように思う。
聞いたこともない言葉や難解な文体で、いかにも高尚な文学ですみたいなものより、平易な言葉で、ふだん着の語り口で、実は重要なことを表現していることが好感をもてるし、好きになれる。
ここらあたりは、少々脱線するが、ぼくがやっているITの世界もしかりで、むずかしいことをするより、やさしくシンプルにするほうが何倍もむずかしいことなのである。この本はそういうことも教えてくれるのだ。ぜひ、みなさんに読んでもらいたい本だ。
本人は、最年長の芥川賞を狙うと冗談を言っていたが、これからも素晴らしい小説を書き続けていってもらいたいものだ。
- 植松 二郎
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