この悪化した経済環境のなかでもしっかり業績を伸ばした会社にファーストリテイリング(ユニクロ)がある。その創業者である柳井正が3年前に書いた「一勝九敗」(新潮文庫)を読む。
表題の一勝九敗というのは10回のうち成功は1回であとの9回は失敗であるという意味である。失敗を糧にすれば成功の深さが大きくなるということでもある。
まあ、これは起業家なるがゆえに言えることかもしれないが、言葉どおり数々の失敗を乗り越えて現在のユニクロを作ってきたことが書かれている。
柳井正はぼくと同じ学年だから、学生時代に政治運動に走るわけでもなく、マージャンに明け暮れたなんて話に思わず共感してしまう。そんな普通の若者がこれだけのカジュアルウエア会社にしたのだから驚きである。
ところが、本を読んでみると、それがすごい経営戦略だったり、ものすごく運がよかったとかいう話ではない。同じようなことを言う人はいるかもしれないが、それを“すぐに”実践したことにこのひとの真骨頂がある。
普通のひとは目の前にあるリスクに立ち往生してしまうが、この人は失敗を恐れず立ち向かう意気があるのだ。このハイリスクハイリターンに挑んだからこそ今の地位があるわけで、そうでない会社は、変わらないことを是としたわけで、それでは今のような環境では立ち行かなくなるのが必然である。
それにしても、たいしたものだ。ぼくはまがりなりにも起業しているので、その心意気にすごく感心させられる。それと同時にきちんとした理念、事業方針、人材育成といったことを自らの頭で作り上げて実践していることに敬服する。
正直言って、最初のころは、そのうち頭打ちになってつぶれるんじゃないかと若干思ったりした。しかし、製品の品揃えにしても、広告にしても、従来の発想とずいぶん違うものを提供するようになって、これはすごい会社だなあと実感したのである。
ユニクロ(この名前は、ユニーク・クロージング・ウエアハウスからきていて、当初UNICLOだったのが、間違えてUNIQLOと商標登録してしまったという小ネタです)は、当初は安かろう悪かろうのイメージもあったが、フリースの大ヒットで、品質や機能も悪くないものを安価で提供する会社であるという評価となった。
ぼくは、個人的にはそういうことより、世代間のギャップがなく着られるカジュアルウエアというスタイルを作ったということ大きいと思っている。
柳井正は学生時代はVANを着ていたらしく、きっとボタンダウンのシャツを着て、右手に平凡パンチ、左手に朝日ジャーナルだったのではないだろうか。その影響もあって、年代や性別を超えたスマートなカジュアルウエアを指向したのであろう。
ひと昔前のおじさんはカジュアルというとゴールデンベアのポロシャツにベルトレスのゴルフズボンなのであった。それが、ユニクロのオックスフォードシャツとチノパンを着だしたのである。
これには、クールビスも少しは寄与しているように思う。ネクタイをしなくてもいいと言われたらどうしたらいいかわからなくなったおじさんたちが、ユニクロに押しかけた。そして、みんな同じものを買うわけなので、一瞬同じ服を見つけ気まずい思いもしたのである。
ただ、品質という面での耐久性についてはひとことあって、これについては以前書いたのここでは書かない。
これから起業しようとしているひとはぜひ読んでもらいたい。ただ、ここにも書いてあるように、今の日本では多くの障壁があることを覚悟しなくてはいけない。話はそれるが、著者もこの「覚悟」というのを強く言っている。覚悟の最も重要なことは何かというと、誰の責任にもしないということである。
それができるなら起業という選択肢はありです。
話を戻すと、ぼくたちの住んでいる国は、どうもスタートアップには非常に冷たい国で、だからこそ覚悟をもって挑んでもらいたいのである。(もっと気楽にやれたらと思うのだが)この本の中でも、税制で急激に成長した会社を援護するどころか、つぶしかねないような制度という話が出てくる。クロネコの小倉昌男も同じことを嘆いていた。
わが国の制度疲労がもうどうしようもないところまで来ているかもしれない。そんなとき、仕方ないとあきらめるのではなくチャレンジしてほしいのである。そうしたことが制度を変えるきっかけになるかもしれないのだ。
そんな思いを再認識させられた本であった。
