少子高齢化という言葉が嫌いだ。子供を産まないことと歳をとることをなじられているようだからだ。別にそれは勝手でとやかく言われる筋合いはないと思う。そんな思いをすっきりさせてくれる本が「日本人はどこまで減るか」(古田隆彦著 幻冬舎新書)である。
そもそも、少子高齢化で人口が減るということはないと断じる。少子化で出生数が減っても子ども生まれるからそれだけでは人口は増える。高齢化で寿命が延びれば死亡者が減り、人口は増える。だから、少子高齢化で人口が減るのは、出生数が死亡数を下回ってはじめて人口が減るのである。少子高齢化でも逆になることもあるのだ。
だまされたと思うでしょうが、ただの算数だがこれが論理的というものである。その死亡数が出生数を追い越したのが2005年である。ということは、少子高齢化ではなく、少産多死化がおきていると言わなくてはいけないのだ。
それと、子供と老人の定義がもう50年も前のもので子供は15歳未満、老人は65歳以上ですから、現代の感覚では、子供は24歳以下で老人は75歳以上としたら、少子高齢化でもなんでもないことになる。
このようにこの著者にかかると見る目が変わってくる。非常に巨視的な視点でみているから面白い。目先のことだけを見ていると誤ってしまうことを教えられる。
さて、その減りだした人口は単純に少子高齢化というふうには言えないとしたら、どうしてそうなっていくのか、このまま減り続けるとどうなっていってしまうのだろうか。
著者は「人口容量」(キャリング・キャパシティ)という概念を提示する。あるキャパシティに達すると人間はその人口を自ら抑制して減少させるのだという。これは文明の程度や文化の安定度で違うのだが、人口の伸び率がキャパシティの伸び率を上回ると、生理的あるいは文化的な抑制装置が作動するという。
そうしたことが古来から繰り返されてきて、それは人口波動と呼ばれるようにある周期の波がある。歴史的に次ぎの5つの波だという。これは日本も似たようなものなのである。
1. 石器前波(紀元前4万~1万年):石刃文化を中心とする旧石器文明によって成立したが、気候の変化と捕獲技術の向上による乱獲により、600万人で限界に達した。
2. 石器後波(前1万~3500年):細石刃文化を中核とする新石器文明によって成立したが、約5000万人に達した段階で、気候の変動と文明の停滞で人口容量が飽和した。
3. 農業前波(前3500~西暦700年):初期農業を基礎に都市や国家を生みだした粗放農業文明によって成立し、2億6000万人に達したが、気候の変化で農業生産が停滞し、これに起因する民族移動で社会的混乱が拡大したため、人口容量の壁にぶつかった。
4. 農業後波(700~1500年):封建制度による大開墾や農業革命、商業都市の拡大、貨幣経済の浸透などを要素とする集約農業文明によって成立し、4億5000万人に達したが、農業技術の限界と商業と都市が生み出した流行病によって限界を迎えた。
5. 工業前波(1500~2150年):温暖化した気候に守られながら、近代合理主義精神とそれに基づく科学技術革命が作りだした近代工業文明によって成立し、なお急増を続けているが、21世紀中に食糧・資源問題、環境問題などの顕在化に伴って、80~90億程度で限界を迎えるものと予測される。
この波で見ると、現代の日本も2004年にピークの1億2800万人に達したが、以後はこの文明の限界化で減少していく。単に少子高齢化というだけで片付けられない、文明と人口とのバランスで決まってくるというのが大きな眼で見るとわかってくる。
だから、これまでの日本は西欧型科学技術を基礎にした加工貿易文明によって、人口増加の波を作ってきたがそれが限界ということなのである。
ただし、そうだからといってこのままどんどん減少して日本が絶滅してしまうという議論は乱暴すぎて、人口が減るが、一人あたりの生産性もまた上昇してくることによって、そのの生活水準も上昇し出生数も増加してくるし、だいいちこれ以上平均寿命が延びてこなくなり、結果的に人口数の反転が起こる。
この本ではその底打ちは、2087年で、人口が6700万人だという。おお、いま生まれた人たちが死ぬころになってやっと人口が増えだすのか。
もっといろいろ書きたいが長くなるのでやめるが、目からうろこ的な驚きがあった。現象を微視的にとらえると本質から外れることがある。最初に言ったように短絡的に「少子高齢化」が悪いという見方では本当のことは見えてこないし、逆に大きな目でみると、これからどういうふうにしたらいいのかもわかってくる。
そして、なにより、人間も生物であり、その生態的な、あるいは生理的なふるまいもまた他の動物に似ているのだ。だから、人間は特別で人工的に制御し、いつもバランスのとれた状態を維持し続けることができるなんてことは幻想にすぎない。
それに関係することとして、人口とは直接関係ないが、先に説明した人口波動のところで、実は気候変動という要因が多く出てきている。温暖化で文明の進展が活発になると、寒冷化で停滞して人口が減るということを繰り返しているのがわかる。
このこともいまの温暖化論争をみるにつけ、何か違和感が生じてくる。そうしたことも考えさせられる良書であると思うが、きっとこうした意見を嫌う人もいるのでそういう人は読まないでください。