ちょっと前に「イノベーション新時代」という本を読んで、イノベーション実現のカギが業務プロセスにあるというような論を考えてみたが、しかし、そのイノベーションそのものをどういう風にして着想するかという問題への答えではない。
そんな思いで「ビジネスインサイト」(石井淳蔵著 岩波新書)を手にする。副題が“創造の知とは何か”である。経営者はどうやって新しいビジネスモデルを思いつくのだろうかというのがこの本のテーマである。
のっけに、元松下電工会長の三好俊夫の言葉「強み伝いの経営は破綻する」という言葉から、現状の延長を続ける経営からどこかで「跳ばなければいけない」という問いかけで、その“跳ぶ”とはどういうことかを追いかけていく。
その力として「ビジネスインサイト」という概念を提示している。インサイトという言葉は聞きなれないが、“未来の「成功のカギとなる構図」を見通す力”ということだという。それは、あるとき偶然と必然の重なりあいの上で閃くのだそうだ。
これは、成功を納めた経営者に共通的に持っている資質でもある。著者は、ヤマト運輸の小倉昌男の例でそれを説明している。まだ大和運輸といって大口輸送の配送業だったが、その限界を感じ、思い切って家庭向けの小荷物配送に切り替えようと考えていたころ、ニューヨークに出張して、マンハッタンの交差点でUPSの集配車が4台停っていたのを見た瞬間閃いたのだという。それが宅配便ビジネスへとつながったのだ。
それまでもやもやしていた霧が一瞬にして晴れた感じではなかったのだろうか。そこで感じたのは、一台の車が広範囲にわたって荷物を集配するのではなく、狭く限定された範囲でもビジネスが成り立つことを知ったのである。
こうして、普通の人間だったら、交差点に車が4台停まっているのを見ても何も思わないが、小倉昌男には、それを見たとき将来のビジネスの構造が見通せたということである。
その他、流通革命を起こしたダイエーの中内功、セブンイレブンの鈴木敏文、ちょっと変わって、マーケティングの世界でイノベーションを起こしたキットカットのことなどが登場している。
このビジネスインサイトというのは、マイケル・ポランニーの「暗黙の認識」がかなり関連してくる。そこで「対象に棲み込むこと」を提起している。ただこういうと、よく言われる暗黙知を形式知にするというように思われがちだがそれとは違うことを主張している。このあたりが面白いところである。
どういうことかというと、従来の暗黙知というのは「すでに存在する実体」としての知識を指しているが、それは言い換えれば名詞としての知であったが、ポランニーのいうのは動詞として知ること、つまり進行形の方なのだ。
「暗黙裡に、つまりそれとわからないうちに知ってしまう。隠れたプロセス」のことで。これはいわゆる実証主義のプロセスの限界を超えるカギなのかもしれない。
これ以上は長くなるので、このへんにするが、非常におもしろい本です。ご一読をお薦めします。経営やマーケティングだけに限らず、あらゆる局面で参考になるし、身近での小さなイノベーションもあるわけだから、大いに役に立つ。
この本を読んでのぼくの閃いた言葉は、以前にも書いたがパスツールの「Chance favors the prepared mind」である。何もないところから、“インサイト”が生じるわけではなく、常日頃から問題意識をもち、真剣になって悶え苦しんでいる人に宿るものであろう。
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創造することは思い出すことに似ている
■経営者は”跳ばなくてはいけない”■
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