これはまぎれもなく傑作だ。第82回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したアルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」である。平日の午後3時半からの上映というのに3時前に窓口で入場券を買おうとしたらもう数席しかりありませんという。前から2列目の端の方の席をやっと確保する。
口コミで良さが伝わってのことだと思うが、期待にたがわずずっとスクリーンに引き込まれてあっという間の2時間ちょっとであった。何がそうした評価になっているかというと、全体の構成から、時間と場所の出し入れ、細部の描き方の丁寧さ、意外性、ハラハラドキドキ感、ユーモアなどなど多くの要素を無駄なく見事に収めてあることだと思う。
主人公は、刑事裁判者に勤めるベンハミンという名の男で、定年を迎えてやめるのだが、25年前のある事件を題材に小説を書こうとする。それを元の女性の上司イレーネに見せながら、その過去の事件へとシーンが移っていく。
この事件のいきさつを縦糸に、イレーネとの愛を横糸にそれぞれが交錯しつつ物語が進んでいく。その事件は、新婚早々の女性が自宅で乱暴されて殺されるが、犯人をでっちあげて事件の終息を図ろうとすることに疑問をもった主人公が真犯人を追いつめていく。
この流れが、ストーリーの中核を占めているが、そこに殺された女性の夫がずっと真犯人を捜すために駅に通い詰める姿や、いつも酔っぱらっている主人公の同僚の味のある存在感などがちりばめられる。
そして、最後の衝撃的なラストにつながる伏線が仕掛けられている。こうした肝の仕掛けもさることながら、ディテールにも仕掛けがほどかされていて、例えばタイプライターのAという文字が壊れていて打てないというセリフが何度もでてくるが、それもちゃんと意味のあることだったとあとでわかるのだ。
そして、横糸の主人公のベンハミンとイレーネが25年の歳月を経て、一方で事件のことは忘れようという心理とは違い、忘れられない、いや忘れたくない思いを貫くのだ。ここで観客は救われる思いがするのである。
いま言った衝撃的なラストについて書きたい衝動にかられている。非常に重く根源的なことなので言いたいことがあるのだが、しかし、ネタバレになるのでやめておこう。いやあ、実に多くのことを考えさせられる映画であった。久々の星5つですのでぜひ観てください。
